英国のソフトウェア大手OneAdvancedは、厳格なデータ主権要件が求められる環境下で、50以上のAIエージェントをAWS上に展開する独自アーキテクチャを構築した。AWSの技術ブログによれば、マネージドサービスに依存せず、自社制御下でLLMをセルフホストするこの手法は、規制の厳しい業界におけるAI活用の新たな道筋を示している。

なぜマネージドサービスを避け、あえてセルフホストを選択したのか?

OneAdvancedが50を超えるAIエージェントを展開するにあたり、Amazon Bedrockのようなマネージドサービスではなく、Amazon SageMaker上でオープンウェイトモデルをセルフホストする道を選んだ背景には、顧客が求める「英国国内でのデータ完結」という極めて厳格なデータ主権要件がある。公共部門や医療分野では、データの所在が法的に厳格に管理される必要があり、クラウドベンダーのマネージドサービスが特定のリージョンで未対応の場合、開発が停滞するリスクを抱えていた。同社は、インフラの主導権を自社で握ることで、こうした法規制の不確実性を排除する戦略をとったと見られる。

3週間で50エージェントを実装した技術スタックの全貌

同社は、vLLMを用いてSageMaker上でモデルをサービングし、Amazon ECSでエージェントをオーケストレーションする構成を採用した。特に注目すべきは、Strands Agents SDKを活用し、わずか3週間で医療、法務、人事など多岐にわたる50もの専門エージェントを実装した開発スピードである。Amazon ECSとDynamoDBを組み合わせることで、非技術者でもエージェントを作成できるノーコード環境を整備し、現場主導のAI活用を加速させている。

規制産業における「インフラ主導権」がもたらす競争優位とは?

この事例は、データ主権を重視する企業が、AI導入において「利便性」と「統治(ガバナンス)」のどちらを優先すべきかという問いに対し、コストをかけてでもインフラの主導権を握るという一つの回答を提示している。自社でモデルをホストすることで、特定の国やリージョンでのデータレジデンシー要件を確実に満たせる。推論基盤にはp5.48xlargeインスタンスを採用し、128Kトークンを超えるコンテキストウィンドウを確保しており、大規模文書解析を必要とする業務ニーズを的確に捉え、規制の厳しい業界でのAI活用を加速させる競争優位性を生み出している。

セルフホスト運用の負荷と将来的な技術負債のリスクをどう管理するか?

マネージドサービスを利用しないセルフホスト型のアプローチは、モデルのアップデートやセキュリティパッチの適用、GPUインスタンスの運用負荷を自社で負うことを意味する。IDCの分析が指摘するように、主権を重視する代償として運用コストが将来的に開発リソースを圧迫する可能性は否定できない。また、特定のSDKへの依存が、将来的な技術スタックの柔軟性を損なうリスクも考慮すべきである。今後、OneAdvancedがこの複雑なインフラをいかに効率的に維持・拡張し、ISO 42001などのAIガバナンス基準を継続的にクリアしていくのか、その運用実績が他の規制産業におけるAI活用の試金石となるだろう。